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第11章 ずっと前から
朝のオフィスは、いつもと同じざわついた空気のはずなのに今日は妙に音が響いて感じた。
カツン、とヒールの音。
プリンターの動作音。
誰かの笑い声が、ひどく遠く聞こえる。
(……あんな顔、初めて見た。)
玄関先で見た甚爾の表情――
どこか苛立ちを含んだような諦めにも似た無関心を装いながらも確かに、怒っていた。
なのに、彼はそのまま背を向けた。
どこにもぶつけられないその記憶が喉の奥に、しこりのように残ったままパソコンを開いても文字が頭に入ってこなかった。
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