第22章 甘い余韻
それでも、この沈黙は不安を連れてこなかった。
むしろ、心地よかった。
甚爾がそっと唇を重ねてくる。
触れるだけのキス。
けれど、そこに込められた気持ちは、いつものどんな行為よりも重たくて甘かった。
甚「……今夜は、抱いても良いか?」
「うん。……好きって、言ってくれたから。」
ミクがそう答えると、甚爾は微かに笑った。
いつもの冷たく無表情な顔とは違う、やわらかい笑みだった。
その夜、ミクは彼に何度も抱きしめられた。
激しさはなく、ただ確かめるように静かに丁寧に。
抱きしめられる腕に力がこもるたび、ミクはこの場所が“帰る場所”だと感じていた。
裸のままの肌と肌が重なって、鼓動と鼓動が響き合う。
言葉よりも、ずっと深く想いが交わる。
そして夜が更け彼の腕の中でまどろむミクに甚爾はもう1度、囁いた。
甚「もう、どこにも行くなよ。」
「……うん。甚爾だけを、ちゃんと見るよ。」
闇の中、2人の間にあった曖昧さはもうなかった。
ただ、たしかな“好き”という想いと、その想いを伝えあえた夜が、そこにあった。
——ふたりの関係は、ようやく始まったばかり。
でも、それで十分だった。
恋は言葉になった瞬間から、未来へ動き出す。
そしてミクは、初めて心から眠りについた。
もう、ひとりじゃないと知っている夜に。
──end