第10章 遠回り
1日中、仕事に追われた身体を引きずるようにして帰宅したミクはスーツの上着を玄関先で脱ぎ捨てヒールを脱いで無造作に蹴飛ばすと、そのままリビングに沈み込むように座り込んだ。
部屋は静まり返っている。
冷蔵庫のモーター音と、エアコンの微かな風音だけが耳に残る。
何かをしていないと、考えてしまう――
あの人のことを。
伏黒甚爾。
不意に名前が頭に浮かぶと、背筋がぞくりとした。
乱暴で無遠慮で、けれど熱を孕んだあの視線。
脳裏に焼きついて離れない指の感触。
ベッドの上で何度も抉るように突き上げられた記憶が、じんわりと身体を疼かせる。
「……ばかみたい。」
苦笑しながら立ち上がり、バスルームに向かう。
シャワーの音で雑念を流したかったのに熱い湯を浴びるほどに、彼に抱かれた夜の記憶が鮮やかに蘇る。
鏡に映る自分の身体。
項に残った淡い痕が、名残を物語っていた。
「また……こんな……。」
ミクはバスタオルを巻いたままベッドに横たわると、脚を緩く開いた。
指先が太腿に触れただけで、敏感に震える。
彼に責められるように、荒々しく押し倒されたい――。
「甚爾さん……。」
呟いた瞬間、熱が腹の奥で爆ぜた。
自分で触れているのに、彼に抱かれているような錯覚に陥る。
指先が秘部に触れようとした――
その時だった。
――ピンポーン。
インターホンが鳴る。
身体が跳ねる。
心臓が一気に現実へと引き戻され、焦燥と羞恥で全身が熱くなる。