第10章 遠回り
悠「あ、ごめん、変なこと言って──。」
「ううん……ちょっと、ドキッとしただけ。」
ミクが小さく笑って返すと、悠仁の顔がぱっと赤くなった。
そのまま会議室に移動して最終確認を終えた後、帰り支度をするミクに、悠仁は声をかける。
悠「ミク、俺──ただ優しくしてるわけじゃない。」
彼の手が、そっとミクの手元に伸びた。
直接触れないけれど、その指先は明らかにミクの指に寄り添っていて。
悠「……ちゃんと、好きだから。」
ミクの瞳が揺れた。
時間が静止したかのような一瞬、誰にも邪魔されない夜のオフィスで──
「……それって。」
悠「答えは、今じゃなくて良い。」
少し照れたように笑って、悠仁は手を引っ込めた。
悠「でも……残業あと3回くらい一緒にやったら、もう1度聞かせて。」
彼のその言葉が冗談のようでいて、どこまでも誠実で、ミクの胸の奥にふわりと温かい風を吹き込んだ。