第9章 どうでも良い
悠「ミク?」
背後から声をかけられて驚いて振り向くと、そこには悠仁が立っていた。
悠「偶然……帰り? 遅かったんだね。」
「あ、うん……仕事、ちょっと詰まってて。」
どこか気まずく目をそらすと、悠仁は笑いながら言った。
悠「そっか……じゃあ、少しだけ話しても良い?」
駅のベンチに座り、2人きりの空間に静けさが落ちる。
悠「……急にごめんね。でも、ずっと言えなかったから。」
悠仁は鞄を膝に乗せ、視線をミクに向けた。
悠「俺、ずっとミクのこと……好きだったんだ。」
思いがけない言葉に、息が止まる。
悠「最初はただ憧れてただけで。でも一緒に仕事して、いろんな顔見て……いつの間にか本気になってた。」
彼の声は真剣で、少し震えていた。
まだ幼さが残る顔に浮かぶ、精一杯の勇気。
悠「……知ってる。きっと誰か他にいるのも。でも、もしどこかで……しんどくなったときは、俺がそばにいたい。」
言葉が、胸の奥にまっすぐ突き刺さった。
ずるいほどまっすぐで、優しい。
そして、どこか救いのようでもあった。
「悠仁……ありがとう。ほんとに。」
悠「それだけ言いたかった。じゃあ、また会社で。」
立ち上がって背を向けた悠仁の後ろ姿は、どこか背筋が伸びていて、まっすぐだった。
ミクはその場にしばらく座ったまま心の奥に静かなざわめきを抱えて、夜風に吹かれていた──