第9章 どうでも良い
語尾が震える。
言ってしまった。
けれど、もう止まれない。
甚爾の目がようやく真っ直ぐにミクを見た。
その瞳に浮かぶのは、読みづらい感情の濁流だった。
甚「……オマエ、まさか……嫉妬してんのか?」
呆れたような口調。
でも、その言葉の奥に、どこか試すような脈打つ興味が滲む。
ミクの沈黙が、ある種の答えになっていた。
甚「……可愛いな。」
その1言で、ミクの胸の内にあった羞恥と怒りと愛しさがぐしゃぐしゃにかき混ぜられる。
甚爾はゆっくりと近づき、彼女の目前で立ち止まった。
甚「今ここにいんのは、オマエだけだ。」
低く囁くように言うその声音には、いつものような軽さはなく、どこか真剣さが滲んでいた。
それでも、ミクは視線を合わせず唇を噛んだまま俯いた。
「……そんなの、わかんないよ。」
次の瞬間、顎を指先で軽く持ち上げられ無理やり目を合わせさせられる。
そのまま、ふっと口元だけが微笑んだ。
甚「じゃあ、今夜……確かめさせてやるよ。オマエがいちばんだってことを。」
彼の目には支配と欲、そして妙な優しさが交じっていた。
まるで、それが当然であるかのように──
「……帰って、お願い。」
ミクの声は、かすれながらもはっきりしていた。
怒りでも憎しみでもなく、ただ深く傷ついた声音だった。
甚爾の手がミクの頬に触れようと伸びた瞬間、彼女は思わずその手を払いのけた。
「触らないで……! もう、無理なの……。」
はらりと涙が頬を伝う。
それを拭おうともせず、ミクは唇を震わせたまま彼をまっすぐ見つめていた。
甚爾は言葉を失ったようにその場に立ち尽くす。
いつものような軽口も、皮肉も言わない。
ただ彼女の涙を見つめていた。
「あなたが他の人とどうしようと、私には関係ないって……思おうとしてた。なのに……こんな風にされて、都合よく扱われて……私、壊れそうだったの。」
その言葉に、甚爾の目がわずかに揺れる。
甚「だったらどうしろってんだよ。」
低く絞り出すような声。
ミクはそれ以上言葉を継げず、喉の奥からすすり泣きがこぼれた。
――そして、胸元を押した。
「帰ってよ、お願いだから……っ!」
玄関に向かって強く押しやる。