第9章 どうでも良い
玄関の扉が閉まる音が、ひどく重たく響いた。
それと同時に、無遠慮な足音が床を踏みしめていく。
「……ちょっと、待ってよ……!」
ミクの声はかすれながらも、いつになく強かった。
甚爾がリビングへとずかずか入ろうとしたその背を、言葉で止める。
「勝手に入らないで。帰って。」
甚爾の動きが止まる。
振り返ることもせず、ただ1拍、間を置く。
それだけで背筋が粟立つような緊張が走る。
甚「……は?」
ゆっくりと振り返った甚爾の顔には、明確な不機嫌があった。
だがそれは怒りというより呆れや苛立ち、そしてどこか…
寂しさのような、言葉にしがたい感情が混ざっていた。
甚「何、いきなりどうした。」
ミクは息を飲んだ。
言うつもりじゃなかった。
でも──
言わなければ、きっとずっと心を支配されたままだと思った。
「……あなたが前に言ってた“女”って、誰?」
静かな声。
けれどそこには確かな問いと、感情があった。
甚爾は一瞬、言葉を飲んだように眉をぴくりと動かした。
すぐに視線を逸らし、壁に寄り掛かるようにして肩をすくめる。
甚「……前の話、まだ覚えてんのか。」
「覚えてる。だって……気になって仕方なかったから。」
甚「気にする必要ねぇよ。オマエとは関係ない。」
「関係ないわけないでしょ……。あんなに、何度も抱いておいて──。」