第8章 たまには
悟「ミク……愛してる。狂いそうなくらい、オマエしかいない。」
彼はミクの汗ばんだ額にキスし、絡み合う身体をさらに強く抱きしめた。
その腕の中にいると逃れられないとわかっていても、不思議と安心してしまう自分がいた。
悟「逃げられると思ってたの? バカだね。僕は、ミクを手放すくらいなら……壊してでも、僕だけのものにするよ。」
朝方、ベッドの中で悟は尚も彼女を抱いたまま離さなかった。
窓の外がうっすら明るくなる頃、ミクは力なく彼の胸に頬を預け、目を閉じた。
何度も何度も名前を呼ばれ何度も何度も中を満たされ、意識の淵を何度もさまよった夜。
「……私、壊れちゃいます……悟先輩……。」
悟「良いじゃん、壊れて。僕の形に、作り直してあげるよ。……ずっと、僕だけを感じて。」
その言葉と共に、悟は再び彼女の奥へと沈んでいく。
朝の光が差し込んでも、彼の執着は終わる気配を見せなかった。
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ミクはゆっくりと瞼を開けた。
ふわりと肌を撫でるシーツの感触と、どこか安心するような柔らかな呼吸のリズムが隣から聞こえる。
(……夢じゃなかったんだ。)
微かに動かした視線の先には、静かに眠る悟の姿があった。
シャツは、はだけ片腕が自分を守るように伸びている。
その表情には昨夜見せていた嫉妬や焦りはなく、まるで少年のように穏やかだった。
ミクはその横顔を見つめながら胸の奥にほんの少し、温かいものが灯るのを感じた。
(甚爾さんとは……違う。)
気まぐれで強引で、支配するように身体を奪ってくる甚爾。
どこまでも優しいふりをしながら、時折冷たく突き放す悟。
同じように抱かれたはずなのに残る余韻は、まるで違っていた。
不意に、悟が目を開けた。
悟「……おはよう。よく眠れた?」
掠れた声で囁かれ、ミクは思わず頷いた。
その仕草に悟は少し照れたように笑って、枕の上から指先でミクの頬をそっとなぞった。
悟「なんか……夢みたいだね。こんな朝。」
「……はい。」
たった1言。
でも、そこにはたくさんの想いが詰まっていた。
言葉にできない何かが、空気の中で静かに揺れていた。