第1章 お隣さん
甚「……やっぱ、足りねぇんだな。」
女の動きを見て、甚爾は嗤うように言った。
甚「もっと突っ込んでみろよ。さっきより奥にな。……ほら、どうした、止まってるぞ?」
「っ、や、だって……これ以上、自分じゃ……っ。」
甚「ああ、わかるわ。女の指じゃ、奥まで届かねぇもんな。」
そう言いながら、甚爾は立ち上がった。
が、期待したように彼の手が伸びてくることはなかった。
代わりに、女の横を通り過ぎて――
窓を開けた。
「な、なに……っ?」
甚「ちょっと風、入れた方がいいだろ。部屋が、オマエの匂いでムンムンすぎてな。」
「っ……いじわる……っ。」
女は悔しげに唇を噛む。
欲しかったのは男の指、男の熱、男の責めだった。
けれどそれをわかっていながら甚爾は一切与えず、ただ“見て”いるだけ。
それが余計に、女を狂わせる。
甚「なあ。」
甚爾が背中越しに、低い声で言った。
甚「次、もっと感じたいなら……俺にちゃんと“欲しい”って言えよ。ちゃんと名前呼んで。“甚爾”って。」
その声に、女の心臓が跳ねた。
恥を捨てなければ、与えてもらえない。
自ら懇願しなければ、満たされない――。
そう理解したとき女の身体はまた、熱を帯び始めていた。
「……甚爾、さん……」
震える声が、部屋の空気を淫らに震わせる。