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モニタリング

第7章 沈黙という命令


仕事が終わり重い足取りの中エントランスの扉を開けた瞬間、ミクは思わず足を止めた。

階段の奥、部屋の前。

無造作にポケットに手を突っ込み、壁にもたれ掛かっているのは伏黒甚爾だった。

低く落とされた視線の奥に、いつもと違う色が宿っていた。

甚「……帰り、遅かったな。」

低く、くぐもった声に、ミクの喉がごくりと鳴る。

気づかれてないはず、と思っていた。

いや――

気づかれていても気づかないふりをしてくれると、甘く見ていた。

「仕事が長引いて……。」

甚「へぇ、仕事ね。」

小さく鼻で笑うような声音が、妙に耳に残った。

甚爾が1歩、踏み出してくる。

そのたびに、靴音すら鼓膜の内側で響くようだった。

甚「真っ赤な顔して帰ってきて、髪も乱れてる。そんな“仕事”があるなら、俺もしてみてぇな。」

その言葉に、ミクは一瞬言葉を失いかける。

でもすぐに、きつく唇を噛みしめて俯いた。

甚「オマエ、自分の顔がどうなってるか、わかってんのか。」

不意に、顎をすくい上げられる。

その指先は乱暴ではない。

だが逃げられないほど、確かに強い。

至近距離で交わる視線に言い訳も、虚勢も通じない。

「……別に、何も……。」

甚「ミク、顔、真っ赤だぞ。こっち向け。……ほら、舐めるみたいに見てやるから。」

耳朶のすぐそばに、喉の奥で笑うような声が落ちる。

吐息混じりに囁かれ、ぞくりと背筋が震えた。

「……っ、やだ。」

甚「やだ?だったら、なんでこんな目してんだよ。あっちで弄ばれて火照ったまま帰ってきたのか?」

わざとらしく口元を舐め、ミクの髪をふっとかき上げる。

その仕草1つ1つに、悪意とも愛撫ともつかない熱が潜んでいた。

甚「……俺のこと、舐めんなよ。」

囁くように言ったその声は、どこか傷ついたようでいて底には明確な“支配”の色があった。
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