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モニタリング

第6章 静寂の支配


その瞳にはいつもの柔らかさがあった。

けれど、そこには明らかに冷えた光が差していた。

「………………。」

悟「言い訳、しようとしてる?」

言い方は穏やかだった。

声も低く、音量も抑えめ。

けれど、なぜか体温が少しずつ下がるような冷ややかな圧があった。

悟「僕ね、あんまり怒らない方だと思うんだ。ミクにも、そう見えてるでしょ?」

悟は立ち上がると静かにテーブルの端を回りこみ、ミクの横に立った。

そして何の前触れもなく、ミクの顎に指をかけて、ゆっくりとこちらを向かせる。

悟「でも……“他の男の事、考えてる”って感じるときだけ、ほんのちょっとだけ意地悪になる。」

至近距離。

吐息が頬に掛かるほど近くで、悟は笑った。

けれどその笑みは、明らかに“気づいている側”の余裕で塗り固められていた。

悟「ねぇ、ミク。僕ってそんなに、軽く見える?」

「……そんなこと、ないです。」

悟「なら、どうして他の男のところに行ったの?」

言葉よりも、間。

問いかけのあとに生まれる沈黙が命令のようにミクの呼吸を縛ってくる。

返事を急がず、じっとその表情を見つめる悟は、まるで彼女の罪悪感を測るかのように観察していた。

悟「ミクって、押しに弱いよね。」

ぽつりと言ったその1言が、まるで皮膚を這うように胸の奥に落ちた。

悟「もし僕が本気で君を奪うって決めたら……きっと、逃げられないよ?」

背中に忍び寄った手が、軽く肩を撫でる。

触れているのか触れていないのか曖昧なその感触に、ミクの心はざわついた。

体は1歩も動けない。

声も出ない。

悟「――まだ、そうするって決めてはいないけどね。」

ふっと離れた彼の指先。

けれどミクは自分の心の奥にほんの少しだけ“期待”が芽生えてしまったことに気づき、俯いた。

悟は最後に小さく笑いながら言った。

悟「じゃあ、仕事の話しようか。……でも今日の君、全然集中できそうにないね?」
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