第6章 静寂の支配
「ドキドキなんかしてないです…。」
悟「そう?顔、真っ赤だけど?」
五条の声は、からかい半分でもその奥に何かが潜んでいた。
追いつめるような気配でも、引くような優しさでもない。
ただ“視線を外させない温度”がそこにあった。
悟「……でも、こうやってミクと並んでると、あーやっぱ好きだなって思うよ。」
――その1言が、心に波紋を落とした。
言葉自体は軽い。
けれど逃げ道がなかった。
コーヒーの苦味もサンドイッチの味も、何も覚えていなかった。
ただ、五条悟の"見透かすような笑顔"だけが昼休みの終わりまでミクの視界に居続けた。
15:00過ぎ。
悟「仕事の相談があるんだけど。」
と呼ばれたのは、社内でも使用頻度の少ない奥の会議室だった。
ガラス越しに見える会議室には誰もいない。
ミクは一瞬だけ躊躇したがドアを開けると、そこには既に五条悟がいた。
悟「来てくれてありがと。鍵、閉めてもいい?」
「え……?」
悟「話がさ、ちょっと込み入ってるから。ほら、他に誰か来ると気が散るでしょ?」
微笑みながらも、その手は本当に鍵をかける。
カチリと響いた小さな音が、ミクの胸の奥に妙な緊張を走らせた。
悟「昨日の夜、アイツと一緒だったの?」
唐突なその言葉に、ミクは言葉を詰まらせる。
「え……先輩、それって仕事の──。」
悟「うん、仕事の話に入る前にちょっとだけ気になってること整理したくて。」
椅子に座った悟は、頬杖をついたままミクをじっと見つめた。