第5章 帰り道の熱
甚「……帰るぞ。」
「ちょ、ちょっと待って……。」
甚「待たねえよ。」
指先に力が込められる。
ほんの少し肌がこすれ合うその感触さえ、ミクの心をざわつかせた。
悟「甚爾さん、それは……強引すぎじゃないですか?」
五条が1歩、前に出る。
だが甚爾は、ただ鼻で笑った。
甚「オマエが優しくしてる間に、コイツはこっちで啼いてんだよ。」
空気が凍りつく。
五条の目がわずかに鋭くなった。
ミクは思わず息を呑む。
「――っ。」
「帰るぞ、ミク。」
その声は低く、背中にゾクリと刺さるものがあった。
断る隙など、初めから与えられていない。
ほんの数秒の逡巡のあと、ミクは小さくうなずいた。
「……わかりました。」
腕を引かれるまま、五条の前から離れる。
その背後に、沈黙した彼の視線を強く感じながら――
夜の空気は冷たいはずなのに、甚爾の手はやけに熱かった。
無言のまま歩く道すがら指先はわずかに肌を撫でてくるようで、そこだけが火照っていた。
アパートの前に着くと、彼は振り返らずに鍵を開ける。
甚「……黙ってりゃ、可愛いのにな。」
ドアの内側で、彼が吐き捨てるように言う。
そして無言のまま、彼の手が腰へと回された。
その腕に抗うことなく、ミクの身体はそっと引き寄せられる。
熱がじわりと広がっていく――
肌の奥に、意識の奥に。
甚「今夜は、もう少し反省しろよ。」
その言葉に込められた熱と圧。
ミクの背中を這う視線が、扉の向こうの静けさを濡らしていくようだった。