第5章 帰り道の熱
待ち合わせは19:00。
会社近くの落ち着いたイタリアンバル。
木の温もりがある小さな店内で、五条悟はすでにカウンターの隅に座っていた。
白シャツをロールアップした腕が照明の下できれいに映える。
悟「あ、ミク。早かったね。」
優しく笑うその目に、昼間の軽さはない。
「……お待たせしました。」
自然に隣に座る。
テーブル席ではなく、並んで過ごす距離。
それだけで、鼓動が少し速くなる。
悟「まぁ、たまにはこういうのもアリでしょ。会社じゃ見せられない顔とかも、見てみたいし?」
冗談めかして言ったその言葉に、思わず笑ってしまう。
「そんなに、違う顔してますか?」
悟「してるよ? 僕の前だと、ちょっと構えるよね、ミク。」
不意に、彼の指がワイングラスを持つ手に触れる。
軽い、でも意図を含んだボディタッチ。
「……すみません。癖かも。」
悟「いいよ。焦らずゆっくり仲良くなれれば。」
そう言って注がれたワインは想像以上に飲みやすくて、気づけばグラスが2杯目に差し掛かっていた。
食事はどれも美味しく会話はどこか穏やかで、心地よい。
──でも。
時折、ミクの視線が落ちるのは五条の手。
さりげなく膝に触れられたとき驚いて動揺した自分を、彼は静かに見つめていた。
悟「嫌じゃないなら、もうちょっと近づいてもいい?」
囁くような声。
気づけば、膝と膝が重なり合っていた。
肌を伝ってくる体温に、頭が少しぼんやりする。
「……私、ちょっと酔ってるかも。」
悟「それも、悪くないけどね。」
笑う声が優しくて、ずるい。
悟「ねえ、ミク。」
隣から、ほんの少し顔を寄せてくる。