第5章 帰り道の熱
悟「昨日、頑張ってくれたでしょ? ありがとね。助かったわ、マジで。」
「いえ、私も勉強になりました。」
思わず微笑むと、五条の目元がふっと優しく緩んだ。
悟「……今夜、ちょっと飯でもどう? お礼に。」
唐突に差し込まれたその言葉に、ミクの動きが止まる。
「あ、いや……でも。」
悟「断るの? 僕、割と真面目なんだけどなー? それとも……なんか予定ある?」
――“誰かと?”
五条の瞳が、少しだけ揺れる。
何かを探るように、けれどあくまで軽やかに。
ミクは一瞬、返事に迷った。
でも次の瞬間、気づいたら口が動いていた。
「……はい。行きます。」
五条の顔が嬉しそうに綻んだ。
悟「じゃ、今夜ね。定時で切り上げるから、覚悟しといてよ?」
言葉の端々に感じる距離の近さと、確実に迫ってくる“それ以上”の気配。
なのに――
その瞬間、ふと甚爾の昨夜のメッセージがフラッシュバックした。
《誰にでもそんな顔してんのか?》
──今朝、あんなに他人みたいだったくせに。
なのに、なぜその言葉だけがこんなにも引っかかるのだろう。
心が少しずつ、千切れていくような感覚。
けれど、すべて悟られないように、ミクはいつもどおりに微笑んだ。