第5章 帰り道の熱
シャワーの音だけが、静かすぎる部屋に反響していた。
肌に触れるぬるま湯も、癒しというよりただ無防備な感情をあぶり出すだけ。
甚爾の言葉が、耳の奥でずっと残響のように鳴っている。
『図星かよ。かわいいな、オマエ。』
『今日はもういい。女と出かける。』
その声、その目、その距離。
全部が意地悪で残酷で、でも……熱かった。
「……はぁ。」
濡れた髪を拭きながらベッドに倒れ込む。
部屋着は薄手のワンピース。
いつもなら気にならない生地の感触が、今夜は妙に肌にまとわりつく。
23:00を過ぎたスマホの画面が、1度点いた。
──“伏黒甚爾”
メッセージ通知。心臓が一瞬止まりかける。
震える指先で開くと、そこにはたった1文。
《……誰にでもそんな顔してんのか?》
それだけだった。
でも、画面の奥から体温が滲み出してくるような錯覚。
返事をしようとした指が止まる。
けれど数秒後、再び通知。
《腰、まだ痛むなら冷やせ。ほら、そういうとこ俺優しいだろ》
──優しさなんて、そんな言葉で片付けてほしくなかった。
けれど、その文章の行間からは明らかに滲む支配欲と独占欲。
あの夜の熱を再び引きずり出そうとするような、無言の誘惑。
ミクはスマホを胸に伏せ、シーツの上で丸くなった。
彼の指先が残した痕跡が身体の奥にまだ残っている気がして、思わず太ももを閉じた。
胸の鼓動だけが、深夜の静けさを破って響いていた。