第5章 帰り道の熱
アパートのエントランスが夜風に冷えていた。
残業の疲れを引きずる足取りで自動ドアをくぐると、ふと視界の端に黒い影が見えた。
階段に寄り掛かる男――
伏黒甚爾。
ダークグレーのTシャツにジャケットを羽織り、いつものように無造作な髪が額にかかっている。
ミクの姿に気づくとタバコを咥えたまま、片目を細めた。
甚「……遅いじゃねぇか。」
「っ……甚爾さん……。」
心臓が跳ねた。
今日のこの時間に、彼がここにいるなんて。
「……仕事、残業が入っちゃって。」
言い訳めいた口調になったのは、自分でも分かっていた。
だって、その胸には――
五条の言葉や、あの距離の近さがまだ残っていたから。
甚「ふうん。……残業ね。」
甚爾はゆっくりと煙を吐いた。