第4章 これで全部
悟「ミク、悪いけど今日ちょっとだけ付き合ってくれる?」
定時を過ぎたオフィス。
パソコンの画面にブルーライトが滲む中ひょいと顔を覗かせた五条が、いつもの軽やかな口調でそう言った。
「えっ……残業ですか?」
悟「うん、ごめん。急な追加資料があってさ。ミクが1番、案件把握してるから助かるな〜って。」
「……わかりました。」
断れなかった。
それが仕事だから、というだけではなくて――
ミクの中で、五条の目にうっすらと浮かんだ“何か”が気になった。
人懐っこい笑顔の奥にある、静かな影。
あの人――
伏黒甚爾の熱とは違う、けれど、どこか刺すように胸をざわつかせるもの。
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会議室の窓から見える街の明かりが、深い藍色の空に滲む。
パソコンを並べて作業を進めるうちに、時計の針はすでに21:00を過ぎていた。
悟「……ごめんね、ほんと。ミク、最近疲れてるでしょ?」
「いえ、そんなことないです……。」
咄嗟に返すも、指先が止まった。
――疲れてるのかもしれない。
身体の奥がまだ微かに火照っていて、ふとした瞬間に昨夜の熱が蘇る。
甚爾の吐息、強引な手、揺れる視界――
思い出すたびに、足元がふらつくようだった。