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モニタリング

第4章 これで全部


窓の隙間から射す朝の光に、ミクはうっすらと目を覚ました。

隣にあるはずの重みが――ない。

「……?」

寝返りを打つと、ふわりと男の匂いが残るシーツが肌を撫でた。

昨夜、何度も抱きしめられ名前を呼ばれた記憶がすぐに甦る。

熱が、まだ身体の奥に残っていた。

「……夢じゃ、ないよね。」

シーツを握りしめた指先に、余韻がまだじんわりと絡みついている。

そのとき、ドアの向こうから鍵の音。

ガチャ、と聞き慣れた音に反射的に身を起こすと玄関の方から彼の声が届いた。

甚「ミク、起きてるか。」

――甚爾。

「……っ、ちょっと待って、着替えるから……!」

慌ててブラウスの裾を引っ張りながら髪をまとめる。

数秒後、リビングのドアが開くとコンビニの袋を提げた彼が無造作に入ってきた。

甚「腹減っただろ。パンとコーヒー。後、適当に。」

「あ……ありがとう。」

受け取った袋の中には、ミクがいつも買うお気に入りのクロワッサンとカフェオレ。

「……なんで、わかったの。」

甚「昨日、冷蔵庫見た。」

さらりと答えるその顔は昨夜あんなに激しくミクを貪ったとは思えないほど、あっけらかんとしていた。

けれど、その瞳だけが。

昨夜よりも、どこか深くミクを見ているようで――

視線を合わせるのが、少し怖かった。

甚「そんな顔すんなよ。変なこと、しねえよ。朝から。」

「……し、してたじゃん、夜は。」

甚「はは、否定しねぇ。」

コーヒーの蓋を開けながら笑う甚爾の横顔に、ミクは視線を逸らした。

心だけじゃなく体の芯まで奪われた実感が、まだ消えていない。

けれど、それをどう扱えば良いのかも分からなかった。
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