第1章 お隣さん
甚「……なあ。」
静かに、けれど低く湿った声で甚爾が言った。
甚「本当にひとりでやってたなら――どうやってたか、俺にも見せてみろよ。」
女はビクリと肩を震わせた。
ドアの縁に縋るようにして立ち尽くすその身体は、まださっきまでの熱を引きずっている。
胸は浅く上下し潤んだ瞳には羞恥と戸惑い、それ以上の――
かすかな期待が宿っていた。
「そ、そんなの……っ、むり、むりだよ……っ。」
か細い声でそう言いながら、女は視線を逸らす。
けれどその指先は、無意識にネグリジェの裾をぎゅっと握りしめ太腿の間をきゅっと閉じていた。
甚「……なら、確かめに入るだけだ。」
甚爾は1歩、女の方へとにじり寄った。
甚爾の身体から立ち上る煙草と男臭い体温の匂いが、女の鼻腔をくすぐる。
「っ……あっ……。」
女は声にならない声を漏らしたまま身体を引くこともできずに、その場で固まった。
その隙を逃さず、甚爾はすっと女の肩に手を置き自然な動作で部屋の中へと足を踏み入れる。
ぎし、と床が軋む音が響いた。
甚「……あぁ、なるほどな。匂いが……残ってる。」
低く呟いた甚爾の言葉に、女は顔を真っ赤に染めた。
確かに部屋の空気はわずかに熱っぽく、湿っていた。
ベッドのシーツは微かに乱れ、枕元には薄桃色のローターが無造作に転がっている。
甚爾はそれを見て、口の端をニッと吊り上げた。
甚「こいつでやってたのか?」
「み、見ないで……っ。」
女は慌ててそれを拾おうとするが、甚爾はその手を取った。
大きな掌が女の細い手首を包みこむと、女の体温が跳ねるように上がった。
甚「……やっぱ、声……すげえ感じてたな。どこがいちばん気持ちよかったんだ?」
「言えない……っ、やだっ、そんなこと――。」
甚「じゃあ、やって見せてみろよ。」
低く命じるような囁き。
その声に、女の脚がわずかに震える。
「ここで……?」
甚「ああ。俺が、ちゃんと見てやるから。」
甚爾はベッドの端に腰を下ろし、片肘をついて女を見上げた。
その視線は熱く、獲物をじっくり炙るように滑る。
喉元、胸元、指先、そして太腿の間――。
女は唇を噛んで俯いたまま、数秒間、躊躇した。
けれど――。