第22章 甘い余韻
中の麦茶がカーペットに広がった。
甚「ふざけんな。」
低い声だった。
けれど、その一言の中に彼の感情が爆発する寸前の温度で詰まっていた。
甚「俺がオマエに何してきたと思ってんだよ……ただヤるだけの相手に俺が、あんな顔見せるわけねぇだろうが。」
「じゃあ、なんで言わないの!? 私は、言ってほしかっただけ……“好き”でも“手放したくない”でも、なんでもよかった!」
ミクの叫びが部屋に響いた。
「曖昧にされたまま、抱かれて……期待して、また黙って笑って……そんなのもう、耐えられないよ……!」
目尻から1滴、涙が零れる。
甚爾はそれを見て、苛立ったように頭をぐしゃぐしゃとかき乱した。
甚「……言葉があれば、それで安心できんのか?」
「できるわけない。……でも、言わなきゃ何も始まらない。」
静かな声に、彼は肩を落とした。
甚「……クソが。」
吐き捨てるように言いながら、甚爾はミクの腕を乱暴に引き寄せた。
甚「テメェが他の男に行くくらいなら、殺してでも手元に置くぞ。」
「そんなの……脅しでしかない……。」
甚「……そうだよ。俺はそういう人間だ。」
喉元に熱が上がってきた。
彼の指先は震えていた。
ミクの肩を握る手に、力がこもっていた。
甚「でも、それでも……オマエが俺を見なくなる方が、よっぽど怖ぇんだよ。」
あまりに正直で不器用で、最低な告白だった。
それでも、ミクの胸のざわつきは少しずつ静まり始めていた。
ただ“わからない”と言い続けた男が、ようやく本心を吐いたのだ。
「じゃあ……1回くらい、ちゃんと言ってよ。」
ミクは涙を指で拭いながら、彼の目を見上げた。
「……私のこと、どう思ってるの?」
甚爾はしばらく黙っていた。
そして喉の奥で息を詰まらせながら、ぽつりと低く言った。
甚「……手放したくねぇ女、だよ。」
その声は誰よりも不器用で、真っ直ぐだった。