第22章 甘い余韻
「ねえ、甚爾……私たちの関係って何?」
ふいに落ちたミクの声に、彼は黙ったままソファの背にもたれていた。
濡れたままのグラスをテーブルに置き、煙草を咥えかけて——
火は点けなかった。
ミクは真っ直ぐ彼の顔を見ていた。
「好きとか嫌いとか、そういうことじゃなくて。このまま、なにもわからないまま甚爾に抱かれ続けるの、もう無理なの。」
声は静かだったけれど、明らかに涙を堪えた色を含んでいた。
甚爾は1度、息を吐いた。
そして無言で煙草の箱を指先で弾くようにして、低く答えた。
甚「別に……決めなきゃいけねぇもんか?」
「……は?」
思わずミクは眉をひそめた。
甚「俺たちは今、こうして隣に住んでて都合が合えば抱き合って、……オマエが来たいときに来て、帰りたきゃ帰る。それ以上の肩書き、必要か?」
その言葉が、ゆっくりと、でも確実にミクの胸の奥に刺さる。
「じゃあ、セフレってこと?」
甚「……そう決めつけてぇなら、そうなんじゃねぇの?」
甚爾の目は、どこか試すようにミクを見ていた。
いつもはすぐ逸らすのに、今日は視線をぶつけてくる。
ミクは立ち上がった。
膝が少し震えていた。
「……なら、もう2度と来ない。甚爾とは、これで終わりにする。」
その言葉に、空気が変わった。
甚爾の表情が凍る。
重い沈黙が流れたあと、彼はゆっくりと立ち上がった。
甚「……は?」
低く唸るような声。
甚「おい、今なんつった?」
「終わりにするって言ったの。好きだったよ。だから、甚爾の過去も全部飲み込もうとした。でも、都合の良い女でいたくない。セフレなら、私じゃなくていいでしょ。」
その瞬間、甚爾の拳がテーブルを叩いた。
グラスが跳ねて倒れる。