第22章 甘い余韻
“……手放したくねぇ女、だよ”
その一言が、長い長い迷路の出口のようだった。
夜のしじまに沈む部屋で、ミクはしばらく動けなかった。
ただ甚爾の目を、まっすぐに見返していた。
口にされた、たった一言がどれほど心を救うのかを、ようやく知った気がした。
「……ずるいよ、そうやって。」
目元に滲む涙を袖で拭いながら、微笑む。
彼は少しだけ困ったように息を吐き、それでも真剣なまま、もう1歩ミクに近づいた。
甚「……なぁ。こんな俺だけどオマエ、まだ俺の隣にいたいか?」
その低い声は、ミクの胸に静かに染み渡っていった。
甘さなんてない。
洒落た言葉でもない。
でも、心の奥にまっすぐ届いた。
「……うん。いたい。……ちゃんと、“好き”って言ってくれるなら。」
ミクの声はかすれていたけれど、確かにそう言った。
その瞬間、甚爾は黙ったまま、ミクの頬を両手で包み、そっと額を重ねてきた。
彼の体温が呼吸が、ミクの肌に静かに触れてくる。
甚「……好きだよ。」
囁くように、けれど確かに。
初めて、彼の口からその言葉が零れた。
長く待ち続けた一言が、ようやくミクを満たしていく。
「私も……ずっと、好きだったよ。」
2人はしばらく何も言わず、ただ額をつけたまま呼吸を重ねていた。
静かな夜。
隣の部屋の時計の針の音だけが聞こえる。