第22章 甘い余韻
家の鍵を閉めたのに、心の扉だけがどうしても閉まらなかった。
部屋の明かりはつけたままソファに座っているのか沈んでいるのか、自分でもよくわからなかった。
頭の中に何度も反芻するのは、あの女の言葉。
女『——まだ、好き。忘れたくても忘れられない。』
その告白が、ミクの胸の奥をじわじわと蝕んでいた。
指先に感じる微かな震え。
何度も深呼吸をしても、空気は肺の奥まで届かない気がした。
「私……なんで、こんなに動揺してるんだろう……。」
小さく呟く声は、自分自身への問いだった。
彼が過去にどんな女と関係していたかなんて、今さら驚くことじゃない。
それでも、胸の奥で何かがずっとざわついていた。
——“彼をひとりにしないで”って、どういう意味だったの?
言葉の意味だけじゃない。
その言葉の裏にある想い、未練あるいは…
彼の、かつての“弱さ”に触れた気がして。
気づけば立ち上がっていた。
スマホも財布も持たずスリッパのまま、隣の玄関へ向かっていた。
指先がインターホンに触れるのを、躊躇した。
けれど、押していた。
……ピンポーン。
沈黙。
しばらくして、内側から足音が近づいてくる。
甚「……誰だよ、こんな時間に……。」
低くて掠れた声。
チェーン越しに、ドアが少しだけ開かれる。
そして——
甚「……オマエか。」
チェーンが外れ、扉がゆっくりと開いた。
上半身裸にスウェット。
寝ていたのか、少しだけ目が赤い。
甚爾は目を細め、じっとミクを見つめた。