第2章 言葉に出来ない癖に
彼の腰が最後の波を迎えるように深く、一定のリズムで押し寄せる。
いつもより重く執拗で、容赦がない。
女は小さく首を振るが、抵抗の意志は感じられない。
「……っ、ん、ふぁ……もう……だめ……。」
甚「俺も……そろそろだ。」
途端に、動きが速まる。
ずぷ、ずぷ、と水音が重く響き女の奥で絡みついた熱が、さらに熱さを増していく。
甚「……いく、ぞ……奥、……そのまま、飲めよ。」
最後の1突きと共に、甚爾の全身が震えた。
女の身体の内側に、じゅわ、と熱いものが流れ込む。
「……っ、あああ……あつ……い、の、はいって、……くる……。」
既に蕩けきった身体の中で、その熱を受け止めながら――
女はただ腕の中でかすかに震えていた。
深く繋がったまま彼女は甚爾の背に爪を立て恍惚としたまま、ようやく一息を吐いた。
まどろみの中で、肌に触れるシーツの感触がいつもより重く感じた。
全身がじんわりと火照っている。
とくに、脚の間――
深部にはまだ昨夜の熱が残っていて寝返りを打つたび、疼くような感覚が蘇った。
「……ん……。」
まつ毛を震わせながら目を開ける。
静かな部屋、カーテンの隙間から差す朝の光。
隣を見れば――
そこには、誰もいなかった。
――甚爾の姿は、もうどこにもなかった。
ベッドの中もリビングも脱ぎ捨てられた服も片付けられていて、まるで最初から、ここに彼が来た形跡なんてなかったかのように。
けれど肌に残るうっすらとした痛みやシーツに沁みついた微かな匂いだけが、それが現実だったことを教えていた。
「……夢、じゃ……ないんだよね……。」
鏡の前で髪をまとめながら、小さく呟く。
喉元には、見覚えのない紅い痕。
それを隠すようにスカーフを巻いた。
――忘れたふりをする。
そう決めていた。