第19章 裏に、ある意図
昼を過ぎた頃、資料の山を片づけていると背後からふいに軽やかな声が響いた。
悟「ねぇ、今日ちょっと早めに仕事終わらせてくれる?」
振り返ると、五条悟が書類のファイルを片手にこちらを覗き込んでいた。
シャツの裾をひらひら揺らしながら、無邪気な笑みを浮かべている。
「……どうしてですか? 何かあるんですか?」
怪訝に聞き返すと、悟は肩をすくめた。
悟「うん、今日は飲み会あるからさ。全員強制参加ってことで。僕のね、主催。」
「また勝手に……。」
ため息をつく彼女に、悟はにやりと笑ってウィンクをひとつ。
悟「えー?良いじゃん、たまには息抜きしよ。最近ちょっと疲れてるみたいだし?それとも……僕と一緒じゃ息抜きにならない?」
わざとらしく首を傾げてみせるその姿に、思わず言葉に詰まる。
(……どうして、この人はこういう時だけ妙に勘が鋭いんだろう。)
悟はふっと真顔になり、少しだけ声のトーンを落とした。
悟「……顔色、あんまり良くないよ。無理してない?」
優しい声音が、不意に胸の奥をくすぐる。
心配そうに向けられるその眼差しが、逆に見透かされているようで息苦しい。
「……大丈夫です。ちゃんと片付けておきますから。」
そう答えると悟は小さくうなずき、彼女の机の隅を軽く叩いてから離れていった。
その背中に、言い知れない何かが胸に残る。
“仕事を早く終わらせて”という言葉の裏に、彼の意図が透けて見える気がした。