第17章 赤い痕
涙に濡れた枕に顔を埋めたまま、彼女はひとしきり泣いた。
呼吸は乱れ、胸の奥がじくじくと痛む。
思考がまとまらず、ただ“もう無理だ”という言葉だけが頭の中をぐるぐると巡っていた。
その時――
甚「……おい、オマエ……。」
ドア越しに、低く押し殺したような声が響いた。
びくりと肩が跳ねる。
甚「開けろ。いるんだろ。」
間違いようもない。
伏黒甚爾の声。
玄関扉の向こうで静かに、しかし焦ったように言葉を重ねてくる。
甚「……さっきのは、違う。ほんとに……偶然会っただけだ。」
ドアノブが少し揺れる音がした。
けれど、鍵は掛かっている。
当然だ。
今さら顔など見たくない。
心臓が苦しいくらい脈打って、彼女は泣きじゃくりながら扉に背を預けた。
「帰って……っ……帰ってよ……!」
かすれた声。
喉が嗄れ、涙で呼吸も浅い。
甚「おい、話だけでも聞けって。あの女とは何もねぇ、ただ道端で会って……声かけられただけだ。オマエに言った通り、もう関係は――。」
「うそっ……全部、うそ……っ!」
彼女の叫びが夜の静寂を割った。
「……信じてたのに……っ、信じたのに……どうして……あんな顔で、あんな距離で……!」
甚爾の気配が、少し動いた。
ドアに寄り掛かっている彼女の耳越しに、ため息のような舌打ちにも近い音がした。
甚「……ったく……面倒なとこばっか似ちまって。」
「……なによそれ……っ。」
目の縁が、また熱くなる。