第15章 夢現
なぜ――
そんなことを?
考えるより先に、ふらふらと立ち上がり玄関のドアを開けた。
そこには片手にスーパーの袋、もう一方に保冷バッグを持った五条悟が立っていた。
心配そうな目で彼女をじっと見つめる。
悟「顔、真っ赤。……で、ちゃんと水飲んでる? ご飯、食べた? 薬は?」
「……なんで、来たんですか……。」
掠れた声で問いかけると、悟は目を細めて苦笑した。
悟「なんでって、そりゃ――心配だからに決まってるでしょ。」
「……メールもしてないのに。」
悟「返事ないから余計気になったんだよ。で、来た。」
彼女が何かを言いかけるより先に悟は玄関に上がり、勝手知ったようにキッチンへ向かった。
無言のまま持ってきたスープパックを鍋に移し、火をつける。
悟「……寝てて良いよ。水だけ持ってって。あ、あとこれ、冷えピタ。」
彼が渡してきたのは、小さな袋と冷たいミネラルウォーター。
少し迷いながらも、それを受け取ると、また布団に戻った。
しばらくして、良い香りが部屋に漂ってきた。
彼は丁寧にスープを器に移し、トレーに乗せて運んできた。
悟「飲めそうなら少しでも飲んで。で、汗かいた時の替えのタオルある?」
こくりと頷くと悟は満足げに頷き返し、ベッドの縁に腰を下ろした。
「……なんか、すごいですね。看病とか、似合わないのに。」
悟「え、失礼じゃない? 僕こう見えても、結構献身的なんだから。」
そう言いながら彼は、彼女の額にそっと手を当てた。
その手は冷たくて気持ちよくて、なぜか涙が出そうになる。
「……ありがとうございます。」
ぽつりと漏れたその言葉に、悟は微かに眉を下げた。
悟「……良いよ。僕、こういうときぐらいしか頼られないし。」
彼の声には、ほんの少しだけ寂しさが滲んでいた。
熱のせいだけではない、胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
彼の指先が髪にそっと触れたとき、彼女はもう何も言えなかった。
――彼の優しさは時に心地よく、そして少しだけ苦しい。