
第6章 5

─土曜日、烏野
今日は青葉城西との練習試合
「うぉぉぉ!青城だぁああ!!」
田中と西谷が相変わらず騒がしい。だが、優香は落ち着いていた
むしろ、周囲よりも先に“敵”を見つけていた
(及川徹……一見チャラいけど、頭は切れる。ああいうタイプは……要注意)
「やっほ〜マネージャーさん? 初めまして、青葉城西主将の及川徹で〜す☆」
「……よろしくお願いします」
「えぇぇ!? 何その可愛い声! え、マジでタイプなんだけど?」
(……出た。うさんくさっ)
「……試合、始まりますよ。あとで遊ぶ気なら、ネットでやってくださいね」
「おぉ〜ツンツン……でも好き♡」
「くっそ……あいつ……」
「優香に近づくなよ!」
「え、なんか怖い空気になってる……?」
(…ホント、男って単純)
そして、試合が始まった
試合中─
影山の精密なトス、日向の空中殺法
そして青城の息の合った攻撃と及川のサーブ
見ているだけで、体育館の空気はピリピリしていた
「─っ!」
その時
優香の視界に、ふわりと“黒いもや”が映る。青城の部員の一人の手首あたりに、わずかに揺れるそれは─
(まさか…触手!?)
動悸が早まる。立ちくらみ
その瞬間、優香の手をぐいっと引いたのは─
「お前、大丈夫か?」
赤髪が揺れる。カルマだった
「は? なんでここに…」
「お前の様子が変だったから、会場まで来てみた。…予想通りだな」
カルマの瞳が冷たく光る
「感染者がこの中にいる。しかも、青葉城西の部員…一人じゃないかも」
優香の手が震えた、だが、その手をカルマは強く握った
「お前は“マネージャー”としてここにいる。でも、俺にとっては、“パートナー”なんだよ」
「…カルマ」
「だから、頼る時は頼れ。お前一人じゃない」
その言葉に、優香の中の不安が静かに溶けていった
だが─
「…あれ、カルマくん? 彼氏?」
試合の合間に及川が戻ってきて、にこやかに話しかけてきた
「え、やだな〜優香ちゃん、そういうタイプだったんだ。可愛い顔して毒舌で…ツボだなあ♡」
ピキッ…
カルマの目が、笑っていない
「…次、“優香”って呼んだ瞬間、お前の口ごと潰すから」
「うわ…こわっ。ちょっとだけ本気でゾクッとしたかも…」
「……チッ」
試合は激化していく
そして体育館の外で、何者かが微笑む
「さあ…次は、誰に“力”を与えようか」
─シロの計画が、静かに進行していた
