第5章 4
─稲荷崎高校、半年前。
優香はその日、仮入部という形でバレー部のサポートに加わっていた
本来なら烏野に来る前の“繋ぎ”だった。だが、そこにいたのは一人のマネージャー─白鳥レナ。
「ふ〜ん、あなたが新しい子? まぁ、後輩ならそれなりに振る舞ってね?」
レナは“ぶりっ子”。男の前で態度を変え、周囲をうまく操るタイプ
優香は最初から違和感を覚えていたが、面倒を避けて黙っていた。だが─
「これ、優香がやったんじゃないの?」
「スマホに変な画像送られてきたって、宮侑先輩が…」
ありもしない噂、身に覚えのない行動、すり替えられた証拠
だが、優香は“バカ”ではなかった
スマホを片手に、全ての会話を録音し、監視カメラの角度を計算して証拠を揃えた
そして─
「この録音、監督に聞かせたらどうなると思います?」
レナの顔が引きつる
「ちょ、ちょっと待ってよ、それは誤解で─」
「もう“演技”いらないよ、レナ先輩。お疲れ様でした」
優香の“勝利”だった
(…でも、本当は誰かにそばにいて欲しかった)
そう思ったとき、電話の通知が鳴った
画面に映った名前─《西谷夕》
『オマエがやられてるとか絶対信じねーから。証拠取ってぶっ潰せ。俺が後ろで待ってっから』
その言葉だけで、優香は立ち直れた
現在:烏野
「おーい、優香!タオル、どこだっけー?」
「はいはいどーぞ」
「優香、今日のメニュー見てた?影山がめっちゃ強打してきてさー!」
「見てた。ナイス反応。日向くん、トスは信じて打ちなよ」
日向はニコっと笑う
「優香、見ててくれるから頑張れる!」
(…なんか無邪気すぎて、逆にこっちが恥ずかしい)
そしてふと視線を感じ、振り返ると─
「…えっ、西谷!?」
「よぉ、サプライズ訪問♪」
「ちょ、なんであんたがここに…」
「“幼馴染がなんかヤバい案件に巻き込まれてそう”っていう、幼馴染センサーだよ?」
「はぁ…ホントに昔から変わらない」
そのやりとりを見て、周囲がざわつく
「え、あの子と西谷さんって…まさか?」
「そういえば、幼馴染って言ってたな!」
優香はふいっと顔を背けた
「別に…仲良しアピールとかしてないし」
西谷はおどけて頭をかく
「でも俺、昔から知ってんだ。優香がどんな時でも、絶対に折れない強さを持ってるって」
その言葉に、優香の胸が少しだけ、温かくなった
(ありがとう、夕─)
