第1章 半々羽織
なのにこの日はここに居る理由も無いのに、風呂に入り隊服すら脱いで部屋着を借りていた。
「………………。」
義勇は部屋に入って来た仁美を黙って見ていた。
仁美は義勇を気にする事もなく淡々と寝床の用意を始めた。
用意が終わると、昨夜と同じ様に仁美は部屋から出て行こうとする。
「…お前は夜に行動するのか?」
昼間は姿を見せる事なく、夜にしか姿を表さない。
目が赤いが牙は無い。
鬼でも無いのにどうして鬼と同じ行動をするのだろうか。
「……私は夜に寝られません。」
「……何故だ?」
「夜が恐ろしいからです。」
そう言った仁美の顔に義勇は顔を顰めた。
整った顔は少しも崩れずに義勇の顔を見つめていた。
「…夜に寝た記憶ももうありません。」
「…それは何故だ?」
「………………。」
義勇の質問攻めに、仁美は襖を静かに閉めた。
どうやらこの部屋に留まる様だ。
その仁美の所作に義勇の胸が少し鼓動を打った。