第3章 鬼に稀血
そんな些細な事よりも、もっと素晴らしい事をあなたは私にくれた。
この世界には自分以外の人間がいて。
鬼の居ない世界はこんなにも優しかった。
「実弥様は私が初めて会った人間で、私を助けてくれた誰よりも大切な人です。」
仁美がそう言ったのを聞いて、実弥は少し顔を俯かせた。
胸の締め付けの理由が分からなくて不快だった。
だけど仁美の言葉はその締め付けを柔らかくした。
「……お前の目の色は茶色だった…。」
少しの沈黙の後に、実弥はポツリと呟いた。
「茶色ですか……。あまり想像が出来ません。」
そう言う仁美の前髪を実弥は軽く掻き上げた。
実弥はその赤い目に、あの時の仁美を重ねた。
あの時と変わらずに自分を見上げる仁美に、実弥は仁美の顔に触れた。
ー
ーー
ーーー
あの日は下弦の鬼の情報だった。
何故か1箇所に鬼が集まっている。
実弥にとって鬼をまとめて殺せる絶好の機会だ。
下弦でも、十二鬼月と出会えるなんて、それこそ願ってもない。