第3章 鬼に稀血
その為実弥は任務以外では仁美とは会わない。
たまにこうして仁美の護衛をする以外は、彼女に会いに行ったりした事が無かった。
「…………………。」
「…………………。」
実弥が男湯から出ると、正面に仁美が立っていた。
能面の様な顔をして。
「……男湯覗いてんじゃねぇよ。」
「覗いてません。」
仁美はきっと体だけ洗って出てきたのだろう。
湯に浸かっていた実弥を随分と待っていた様だ。
急いで出てきた所為か、髪の毛すら拭ききれてなかった。
黒い艶のある髪は濡れていて、雫が滴っていた。
そんな仁美の様子を見て、実弥は小さく舌打ちをした。
犬の様に主を待っている仁美が面倒くさくて、1人で部屋にも戻れない仁美が不憫だった。
ジッと自分を見上げてくる仁美から顔を晒して実弥は歩き出した。
すぐに仁美は実弥の後を着いて行った。
仁美から体を洗った匂いと……藤の花の香りがした。
仁美からその香りがするのは、藤の花から作った薬を飲んでいるからだ。