第3章 鬼に稀血
「お前も俺も汗かいて臭いんだよ!!」
実弥はタオルを仁美に投げつけた。
「あっ!実弥様!置いていかないで!!」
部屋から出て行った実弥の後を、仁美は泣きながら着いて行った。
大浴場で仁美と離れて、実弥はやっと安堵の息を吐いた。
隊服を脱いで湯に浸かると、一日中歩いていた疲れを癒した。
疲れを取ると緊張が解れて頭が回ってくる。
実弥は先程までの仁美の様子を思い出した。
(……なんでアイツは俺の側に居られるんだ…?)
思い出したくも無い出来事なのに、何事も無かったかの様に実弥に接してくる。
きっと根本的に気持ちが全然違うのだろう。
仁美にとって実弥はただ助けた人物で。
それ以上でもそれ以下でも無くて。
その後どうしているのか心配するのはいつも実弥の方だ。
会えば苛々するのに、元気な姿を見れたらそれだけで安心できた。
(……あんな光景……。忘れられるはずが無いだろう…。)
実弥は今でも仁美を初めて見た時の事が忘れない。
そして今だに仁美を真っ直ぐ見る事も出来なかった。