第3章 鬼に稀血
「はい。分かりました。」
仁美がそう言うと耀哉は笑顔で頷いた。
「蝶屋敷には実弥に送らせよう。」
耀哉が実弥の名前を出した時、背後から人の気配がした。
仁美が振り返ると実弥が空いていた襖の横で片膝を付いて頭を下げていた。
「御意。」
耀哉に丁寧にそう言う実弥を見て、仁美は表情を変えない様にしていたが、一瞬だけ胸が高鳴った。
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耀哉の屋敷から蝶屋敷までは実弥の足で三日三晩寝ずに歩いて着く様だ。
勿論仁美が居たらその分遅くなる。
仁美は黙々と歩いている実弥の背中に目をやった。
「………………。」
仁美の視線は気付いているだろうが、実弥は振り向かなかった。
仁美は実弥が彼女の顔を見ない理由を知っている。
実弥は仁美に負い目があるのだ。
あの日、仁美の目が鬼の特徴に変化した時から。
彼は仁美が鬼化したのは自分の所為だと自負している為。
その象徴の赤い目を見る事に引け目を感じていたのだ。