第2章 輝石の額当て
天元の言う通りに何度か大きく深呼吸をした。
息を吸う度に天元の匂いに包まれて。
気がつくと、手の震えは止まっていた。
震えが止まった仁美の体を倒すと、天元はそのまま一緒に布団の上に横になった。
まだ腕の中の仁美は離さない。
「……最近、月が綺麗かと聞かないな。」
ふと窓の外に浮かんでいる満月を見て、天元は仁美に聞いた。
「…天元様にはもう聞かなくても分かったので…。」
「何が分かったって?」
『月が綺麗ですね。』
彼がそう言った時に、仁美は答えた。
『ええ、本当に…。こんなに綺麗な満月は初めてです。』
仁美がそう言った時に、あの赤い目は少し細くなり笑った様な気がした。
「…貴方があの人じゃ無いともう分かったから。」
そう目を瞑りながら仁美は言った。
天元は仁美の言葉の意味は理解できなかった。
だけどこれ以上聞かなかったのは、それが仁美にとって思い出したく無い鬼の事を言っていると分かったからだ。