第2章 輝石の額当て
『月が綺麗ですね。』
真っ暗な部屋の中で、婚礼衣装を着た仁美は顔を上げた。
いつからそこに居たのか分からないが、その男は満月の逆光の中赤い目で仁美を見下ろしていた。
顔も見えずに仁美は目を細めたが、光って見えた彼の赤い目が今まで自分を囲っていた鬼と同じで、彼も人間では無い事を理解した。
「ーーーー仁美。」
仁美は天元に腕を掴まれてビクッと体を硬直させた。
「大丈夫か?」
天元の声で仁美は我に返った。
天元が掴んでいる自分の手を見ると、震えていると今気が付いた。
「……大丈夫です…。」
仁美は目を伏せながら言うと天元の手をそっと払った。
しかし、天元は更に強く仁美の腕を掴んで仁美を自分に引き寄せた。
仁美は簡単に大きな天元の胸の中に収まった。
「大丈夫じゃ無い…震えてる。」
天元は仁美の記憶が発作の引き金になる事を知っている。
「息をしろ…大丈夫だ。俺が居る。」
天元に抱き締められて背中を撫でられ、仁美はゆっくりと目を閉じた。