第2章 輝石の額当て
「だから鬼が全滅した時に、俺の所が必要じゃ無かったら……。」
出て行ってもいいと。そう言っているのだろう。
仁美は天元をジッと見た。
実際天元は、仁美がもし自分の所に来たら、手放す事なんてしないだろう。
仁美が知っている天元とはそう言う男だった。
「私の戸籍の心配なら気にしないで下さい。私は一度嫁に入り姓を失った人間なので。」
表上仁美もまた死人となっていた。
あの日。実弥と出会った日に、仁美は全てを捨てたのだから。
「…お前…。結婚してたのか?」
ずっと鬼と過ごしていたと聞いたから天元は驚いた。
酒が無くなった天元の手元を見て、仁美は徳利に酒を注いだ。
「私が嫁いだ男が鬼だったと言う話は、酒のつまみになりますか?」
そう言って天元の手元を見ていて俯いていた顔を上げた。
仁美が天元を見ると、驚いた様に目を丸くしていた。
仁美はそんな天元の肩越しから、窓から見える大きな満月を見た。
あの夜も、今夜の様に大きな満月だった。