第2章 輝石の額当て
普段ならここで寝具の用意をして終わるのだが、天元の場合は違った。
彼は屋敷に来ると晩酌をする事が多い。
寝具の用意のをしてから仁美は晩酌の支度を始めた。
天元は湯浴みを終えると部屋に戻り、整っている寝具の上に腰を下ろした。
ちょうどその時に仁美の気配が襖の向こう側からした。
「失礼します。」
襖を開けて仁美が部屋に入って来た。
晩酌を天元の前に用意すると、仁美は再び部屋から出ようとする。
そんな仁美の手を天元が取った。
「どうせ夜は寝れないんだから晩酌に付き合えよ。」
天元は化粧も落ち髪も下ろしていて、男前な顔で笑みを作っていた。
「…少しだけなら…。」
仁美は徳利に少しの酒を貰うと久しぶりにアルコールを口にした。
静かに酒を飲んでいる仁美をみながら、天元は自分の徳利を置いた。
「俺は忍だったから奉行所に名前も無いし、婚姻したとしても口約束だけだ。」
ポツリと言ったこの話が、先程の話の続きだと言う事は仁美にも分かった。