第2章 輝石の額当て
仁美からは藤の花の香りしかしなかった。
「…今日は薬飲んで無いのか?」
「……ええ。最近調子がいいんです。」
「……………。」
天元の言葉に仁美は眉1つ動かさなかった。
仁美の表情を見て、天元は仁美から顔を離した。
そしてズカズカと縁側から屋敷の中に入って行った。
仁美はそんな大きな背中を見て、自分も一緒に部屋に入って来た。
「屋敷の場所を移したんだな。」
部屋に入り隊服を脱ぎながら天元は仁美に聞いた。
「ええ。前の屋敷には温泉を引いていたし、天元様も奥方様も気に入ってくれていたのに残念です。」
天元が知っている限り、仁美が屋敷を移ったのは3回目だ。
2人は今の柱達の中で長い付き合いの方だった。
初めて天元と会った時は、仁美は初めて屋敷を任されてまだ間もない時だった。
最初は彼の身なりや、奥方が3人も居る事に驚いたが、その生い立ちを聞けば納得もした。
派手な身なりはただの性格の様だったが。