第2章 輝石の額当て
その夜は満月で、いつもより大きく見える月が派手に夜空で輝いていた。
そんな夜に仁美の元に届いた鎹鴉は天元の紅丸だった。
あの鴉は派手で、装飾品の耀石が月の光でさえ反射させてしまい。
密偵として向かないだろうと仁美は思った。
だから仁美は、今日彼が来る事を知っていたのに、門の前には立たずに縁側で姿勢を正して座りながら月を眺めていた。
その時月に人影が映ったと思ったら、大きな体が目の前の庭に入って来た。
「天元様…。どうぞ門からお入り下さい。」
仁美が諭すように言うと天元は笑いながら言った。
「そんな地味に入ってくるなんて死んでも嫌だね。」
これがいつもの彼のスタイルなので、仁美はもう慣れたモノだった。
「お帰りなさいませ。ご無事で嬉しいです。」
そう言って軽く頭を下げる仁美に、天元は近寄って来た。
仁美の前まで来ると、顔をズイッと仁美に近づけた。
鼻先を仁美の顔に近づけて、スンッと仁美の匂いを嗅いだ。