第1章 半々羽織
(……鬼?!)
一瞬腰の刀に手を触れたが、すぐにその手は止まった。
仁美の肩に寛三郎が乗っていたからだ。
義勇は気を取り直して再び仁美に近づいた。
仁美の目の前まで来ると、義勇は仁美を見下ろした。
「……世話になる。」
その短い一言に仁美は頷いて夜空を見上げた。
「……月が綺麗ですね……。」
仁美の言葉に義勇は彼女の目線を追った。
目線の先にある月は普通の月で、夜空は澄んでいたが特段美しく見えるモノでも無かった。
大きな満月や、朧月ならまだ風情があるモノだが。
「……あの月が綺麗なのか?」
「………………。」
仁美は月から義勇に目線を移しそう答えた彼をジッと見た。
そしてすぐに目を伏せると仁美は義勇を屋敷に招いた。
「お疲れ様でした。お休みのご用意が出来ています。」
そう会釈をして門を開けた。
「………………。」
義勇は何故会話が終わったのか分からなくて、しばらく呆然とした。