第1章 半々羽織
今夜の鬼は予想外に強かった。
そう疲れた体を庇う様に、冨岡義勇は力無く山道を歩いていた。
何故かこの近辺は鬼の出没も多く、下弦クラスの鬼が徘徊している事もある。
この地に何があるのか疑問に思いながらも、自分の屋敷からはほど遠く、義勇は近くの藤の紋の屋敷を探した。
寛三郎の情報では近くに受け入れてくれる藤屋敷があるようだ。
寛三郎は一足早く、藤屋敷に義勇の到着を伝えていた。
仁美は鎹鴉の報告を受けてゆっくりと腰を上げた。
寛三郎の伝達通り、半刻ほど待つと人里から少し離れる暗い道に人影が見えた。
急に現れた藤の家紋と強烈な藤の花の匂い。
義勇は顔を上げて藤の家紋が描かれた提灯の下に1人の女が居る事に気が付いた。
ゆっくりと距離を縮めていくと、その女の容姿がだんだんとハッキリ目に映ってきた。
艶やかな黒髪は綺麗に結い上げられていて、1つの簪も刺していない。
義勇の体が強張ったのは、息を呑むほど美しい容姿の女の瞳が血の色よりも赤かったからだ。