第9章 月が綺麗ですね
無惨と繋がり、それが分かっても。
愛だと信じていた彼の気持ちが違うと知っても。
仁美はなんの悲しみも無かった。
かつては心焦がれるほど彼を待っていた。
空に浮かぶ月を見ながら、あの赤い目を思い浮かべていた。
あれは間違いなく、仁美にとっては愛そのものだった。
だけど、薄暗い小屋で一人、部屋の中よりも、外を力強く照らす月の光よりも。
実弥と初めて会った時に、朧げに浮かんでいた下弦の月の方が、綺麗だと思えた。
でも今夜の月も綺麗に輝いていて、仁美はそんな月を見ながら言った。
「……貴方を残して私が逝ってしまったら、貴方の中ではずっと鬼に陵辱されていた可哀想な私と…、私を鬼の目にしてしまった罪悪感だけが、貴方の中に残ってしまうでしょう?」
仁美の言葉に実弥は顔を上げて、彼女の顔を見た。
仁美は月から視線を戻し、実弥と目が合うと柔らかく微笑んだ。
「私はあの時実弥様に助けていただき、本当に幸せでした。貴方の中に、そんな私を残したくて、今日を迎えようと決めました。」