第9章 月が綺麗ですね
仁美は四枚の求婚状を受け取り、一枚だけ返事を書いた。
その一枚の相手と今日。祝言を挙げるのだ。
もちろん、盛大に挙げるのではなく、仁美の望みは慎ましやかに二人で祝言を挙げるのを望んでいる。
仁美にとって、祝言は二度目だし、相手にとっても…。
死にゆく花嫁のせいで、彼の戸籍を汚してはいけない。
彼は、鬼舞辻無惨を滅した後も、誰かとその人生を生きていかなければいけないのだから。
その未来の隣に自分は居なくてもいい。
今ここで、ひと時でも自分の好いた相手の隣に居られる。
それだけで十分だ。
祝言は夜に挙げる。
仁美が昼間は苦手だからだ。
今日のこの夜でさえも、鬼舞辻無惨は村を、街を襲うかもしれない。
仁美のこの願いは大勢の命の上で成り立っている。
それでも耀哉は仁美の最後の願いを聞いてくれた。
初めての祝言は真っ白なドレスだった。
今回の白無垢は耀哉が用意してくれたものだった。
仁美は花嫁衣装のまま、小さな部屋の窓から空を見上げた。
月が綺麗に輝いていた。