第8章 4枚の婚姻状
それはあらかじめ用意されていたような美しい文字だった。
その音は心地よく響き。
愛の囁きだというのならそうなのだろう。
だけど心地よい響きは耳まで届いたが、この胸を震わせることは無かった。
「…光陽を克服する為に、私が必要でしょうか?」
「…馬鹿な事を…。そうならばとっくにお前を喰っている。それがどれほど私が望んでいるか知っているのか?」
仁美はこの時までに、無惨の逆鱗に何度も触れている。
弱点の話など彼の目の前でして、生きているのは仁美くらいだろう。
そして無惨は寛大な方では無い。
むしろ短期で癇癪持ちだ。
それが仁美の前ではいかなる時も、穏やかに努めて仁美を宥めるように話しかける。
それがどれほど特別なことかを、仁美は全く気づいていない。
今だって、湧き立つ怒りを抑えて、必死に隠している。
仁美は彼に手が怒りに震えているのを目の端に感じた。
抱かれている体をそっと無惨の胸に寄せる。
彼の心臓は凪いでいて、とても静かに脈打っていた。
まるでこの愛の囁きが本物のように…。