第8章 4枚の婚姻状
この音を聞いているのが好きだった。
毎夜木枠の窓から入る月明かりの下。
彼の腕の中でこの音を聞いていた。
毎回会う姿は違っても彼の心臓の音は独特で、どんな姿でもすぐに旦那様だと分かった。
夜が明ける頃にはその腕に抱かれて眠りについた。
まるで彼の腕の中だけが自分の世界のように。
それが愛で、幸せだと疑いもしなかった。
胸が締め付けられるようなトキメキも。
押しつぶされるような恐怖も。
鬼に抱かれ自尊心さえ剥ぎ取られた痛みも。
揺さぶるような激しい感情は全て彼から与えられたモノだった。
仁美は無惨から離れて人間と暮らしても、もう二度とあの頃のような激情は持たないだろう。
「……旦那様…。」
仁美は無惨の腕の中彼の名前を呼んだ。
「仁美…。私の我慢に期待するな。お前が戻る日まで目に付く人間を殺していく。私はこれでも無駄な殺生はしていない。だけどお前が戻らぬなら、毎夜村が町が一晩で無くなるだろう。」