第8章 4枚の婚姻状
「私はその時……。実弥様の側にいたいです。」
それはなんの未来も自分で選べない彼女の、たった一つの小さな願いだった。
「……ダメだ… 仁美。」
義勇はやはり、震える手で仁美の肩を掴んでしまう。
こんなことは、仁美にとって悲しさしか残らないのに。
仁美の眉が少し下がっても、義勇は仁美を抱き締めて、彼女に唇を押し付ける。
ちゅっちゅっと何度も口付けを繰り返すと、伏せられた仁美のまつ毛が震えているのが分かった。
「…はぁ… 仁美…。ダメだ…離せない…。」
仁美を強く抱き締めて、義勇は仁美を畳に組み敷いた。
義勇の唇が瞼から頬へ…。
そして首筋に移動する。
こんなに悲しい情欲は初めてだった。
2枚の求婚状を断った時より。
その胸は1番締め付けられた。
後悔はしていなかった。
杏寿郎を助けて鬼化が進んだときに、自分の体がどうなっても。
ああ……だけどどうした事か……。