第8章 4枚の婚姻状
目を向けて見た杏寿郎は隊服を着ていた。
もうここを去るのだろう。
仁美は杏寿郎に向き合い、姿勢を正した。
「お見送りする格好ではなくて申し訳ありません。ご武運を祈ってます。」
「………………。」
仁美の赤い目を見ながら、杏寿郎は何か言いたげにモゾッと動いた。
「仁美の話を聞いた時に……。俺の求婚への返事は俺への気持ちからの返事では無くて、自分が人と幸せになる未来があり得ないと言う風に感じた。」
杏寿郎の言葉を聞いた時に仁美は少し目を伏せた。
その通りだった。
仁美は相手からの好意があれば、相手が望む様に返すことは出来る。
そこにはちゃんと相手への気持ちもある。
だけど自分がその相手と繋がる未来なんて想像出来ない。
仁美の科は、鬼から生まれた事でも、鬼を愛し、愛された事でも無い。
争わずに鬼に堕ちた事だ。
仁美はずっとそう思っている。
だから鬼と戦い理不尽な道理に争っている杏寿郎達とは、一緒にいる資格すら無い。