第8章 4枚の婚姻状
そう思っていたのを見透かされた様だった。
「…相手を1人の人間として見た事はあるか?」
「……もちろん……あります…。」
仁美がそう言うと杏寿郎は仁美の手を取った。
「なら、1人の男として見て、俺はどうだ?良い夫になりそうか?」
そう言われた時に仁美の目が赤く揺れた。
「……まだ…杏寿郎様の事をよく分かりません…。」
否定でも肯定でも無いその言葉が出た時に、仁美は自分で驚いた。
初めから否定しようとした求婚なのに、どうやら自分は彼を否定出来るほど何も知らないと気が付いた。
仁美の言葉に杏寿郎はニッコリと笑った。
差し込む朝日より眩しい笑顔だった。
「なら、俺たちは時間を共に過ごす時間が必要だな。」
ぎゅっと握られた手を思わず見てしまった。
直視するには恥ずかしい位に自分の顔が赤くなっているのが分かっていた。
「わっ……私が杏寿郎様と恋人同士になると言う事ですか?!」
「…うむ…。やはりそんな事すら想像もしていなかったか…。」
仁美の反応を見て、杏寿郎は呆れた様に言った。